初恋カレイドスコープ
第六章 些細な気づき
今週会えますか、と。
送信をタップする手がびっくりするほど震えてしまい、危うくわけのわからないスタンプを送ってしまうところだった。私がわたわたしている間にピロンと可愛い音が鳴って、私の送ったメッセージの下に彼の返事が飛び出てくる。
『木曜なら会えるよ』
この短いお返事を受け取った私がどれほど有頂天になったか、できることなら文字に起こして玲一さんの前で読み上げてやりたい。
ぎゅうとスマホを握りしめて、自分のベッドに横になる。好きな人に会いたいと伝えるのがこんなに大変だったとは。少女漫画のヒロインの気持ちが、遅ればせながらわかった気がする。
家中のカレンダーに片っ端からマルをつけて回りたい気持ちを堪え、スマホのカレンダーにだけしっかりと予定を刻み込む。木曜。ああ木曜だ。この日までにできる準備はすべてやろう。ちょっと可愛いブラウスが欲しい。ムダ毛もちゃんと処理しておきたい。もういっそのこと、新しい下着だって買っちゃおうかな……。
――なーんて、テンション爆上げであれやこれやと夢見ていたはずの私は、木曜当日、ゾンビのような顔で玲一さんの車の助手席に座っていた。
頭が痛い。首回りが重い。脳みその内側でちっちゃい悪魔がトンカチを振り回しているみたい。
(死にそう)
理由ははっきりしないのだけど、今までもこういう日はあった。朝から体調がとにかく優れず、特に頭痛が目立ってひどい。仕方なくいつも常備している頭痛薬を飲み込んで、痛みの波が収まるまでじっと待つしかないのだけど。
(今日だけは、絶対に休めない。玲一さんとの約束がある)
玲一さんが私のために、今日の予定を空けてくれた。
ありったけの勇気を振り絞った先週末の私のためにも、今日のデートは絶対にキャンセルするわけにいかないんだ。
「……凛ちゃん、大丈夫?」
ハンドルを握った玲一さんが、不安そうな顔で私を見る。
私は大急ぎで営業用の仮面を被り、
「全然大丈夫ですよ! どうしたんですか」
と華麗にうそぶいてみせた。
玲一さんはなおも訝しげに眉を寄せたまま、それでも追及することはなく車は黙々と進んでいく。
やがて、未だに慣れないホテルへと進み、いつもどおりの小綺麗な部屋へと足を踏み入れた彼は、止まらない頭痛にふらつく私をゆっくりと振り返ると、
「じゃ、風呂入ろ」
と言って、浴室へのドアを開けた。
「お風呂……ですか?」
珍しい提案に、私は目を丸くする。だって今までここに来たときは、前触れもなく……始まることが多かったから。
仮に身体を綺麗にするとしても、順番にシャワーを浴びるくらい。思えば私はホテルのお風呂を使ったことがなかった気がする。
きょとんとする私を尻目に、玲一さんは湯船にさっさとお湯を溜め始める。なんでお風呂? そういう気分だから? なんでもいいけど頭が痛くて、本音を言えば今すぐにでも横になりたいくらい辛い。
「……わかりました。じゃあ、玲一さんがどうぞ、お先に」
「え? なんで?」
軽々とシャツを放り捨てた玲一さんが、私のブラウスに手をかける。
「一緒に入るでしょ。ほら脱いで。ばんざーい!」
「きゃあ!!」
らしくないほど可愛い声を上げてブラウスを放り出された私は、この日のために新調した赤い下着を大慌てで隠した。ところが玲一さんは下着には目もくれずぽいぽい私を裸にして、ついでに自分の服も投げ捨ててそのまま真っすぐお風呂に向かう。
「ちょ、ちょっと玲一さん!」
「ほら見て、ここ入浴剤あるよ。せっかくだし入れてみるか」
「待ってくださいって! わたし嫌ですよ、い、一緒に入るなんて!」
「なんで? いつもは普通に見せてるじゃん」
送信をタップする手がびっくりするほど震えてしまい、危うくわけのわからないスタンプを送ってしまうところだった。私がわたわたしている間にピロンと可愛い音が鳴って、私の送ったメッセージの下に彼の返事が飛び出てくる。
『木曜なら会えるよ』
この短いお返事を受け取った私がどれほど有頂天になったか、できることなら文字に起こして玲一さんの前で読み上げてやりたい。
ぎゅうとスマホを握りしめて、自分のベッドに横になる。好きな人に会いたいと伝えるのがこんなに大変だったとは。少女漫画のヒロインの気持ちが、遅ればせながらわかった気がする。
家中のカレンダーに片っ端からマルをつけて回りたい気持ちを堪え、スマホのカレンダーにだけしっかりと予定を刻み込む。木曜。ああ木曜だ。この日までにできる準備はすべてやろう。ちょっと可愛いブラウスが欲しい。ムダ毛もちゃんと処理しておきたい。もういっそのこと、新しい下着だって買っちゃおうかな……。
――なーんて、テンション爆上げであれやこれやと夢見ていたはずの私は、木曜当日、ゾンビのような顔で玲一さんの車の助手席に座っていた。
頭が痛い。首回りが重い。脳みその内側でちっちゃい悪魔がトンカチを振り回しているみたい。
(死にそう)
理由ははっきりしないのだけど、今までもこういう日はあった。朝から体調がとにかく優れず、特に頭痛が目立ってひどい。仕方なくいつも常備している頭痛薬を飲み込んで、痛みの波が収まるまでじっと待つしかないのだけど。
(今日だけは、絶対に休めない。玲一さんとの約束がある)
玲一さんが私のために、今日の予定を空けてくれた。
ありったけの勇気を振り絞った先週末の私のためにも、今日のデートは絶対にキャンセルするわけにいかないんだ。
「……凛ちゃん、大丈夫?」
ハンドルを握った玲一さんが、不安そうな顔で私を見る。
私は大急ぎで営業用の仮面を被り、
「全然大丈夫ですよ! どうしたんですか」
と華麗にうそぶいてみせた。
玲一さんはなおも訝しげに眉を寄せたまま、それでも追及することはなく車は黙々と進んでいく。
やがて、未だに慣れないホテルへと進み、いつもどおりの小綺麗な部屋へと足を踏み入れた彼は、止まらない頭痛にふらつく私をゆっくりと振り返ると、
「じゃ、風呂入ろ」
と言って、浴室へのドアを開けた。
「お風呂……ですか?」
珍しい提案に、私は目を丸くする。だって今までここに来たときは、前触れもなく……始まることが多かったから。
仮に身体を綺麗にするとしても、順番にシャワーを浴びるくらい。思えば私はホテルのお風呂を使ったことがなかった気がする。
きょとんとする私を尻目に、玲一さんは湯船にさっさとお湯を溜め始める。なんでお風呂? そういう気分だから? なんでもいいけど頭が痛くて、本音を言えば今すぐにでも横になりたいくらい辛い。
「……わかりました。じゃあ、玲一さんがどうぞ、お先に」
「え? なんで?」
軽々とシャツを放り捨てた玲一さんが、私のブラウスに手をかける。
「一緒に入るでしょ。ほら脱いで。ばんざーい!」
「きゃあ!!」
らしくないほど可愛い声を上げてブラウスを放り出された私は、この日のために新調した赤い下着を大慌てで隠した。ところが玲一さんは下着には目もくれずぽいぽい私を裸にして、ついでに自分の服も投げ捨ててそのまま真っすぐお風呂に向かう。
「ちょ、ちょっと玲一さん!」
「ほら見て、ここ入浴剤あるよ。せっかくだし入れてみるか」
「待ってくださいって! わたし嫌ですよ、い、一緒に入るなんて!」
「なんで? いつもは普通に見せてるじゃん」