初恋カレイドスコープ

 玲一さんのお酒は美味しい。作ってもらったことが嬉しい。

 でも、さすがにちょっと量が多くて……営業課で接待飲みに参加していた頃を思い出す。あの頃も大変だったなあ。私がなんでも飲んじゃうものだから、みんなして面白がってどんどんお酒を勧めてきて……。

「さて、凛ちゃん」

 ぐわんぐわんと頭の中で玲一さんの低い声が響く。

 目が回る。体が熱い。頭がぜんぜん働かない。

 ブラウスの下から入り込んでくる手が、ブラジャーのホックを器用に外す。先っぽをきゅっと乱暴につままれて、はあっと吐き出した吐息にお酒以外の熱がこもる。

 まっすぐに前を向くこともできずくたくたになった私の首を、玲一さんの長い指が支えるようにやわく掴んだ。痛い、と思ったのは、たぶん首筋に爪を立てられたからだ。そのまま彼はほんの少しずつ、指先に力を込めていく。

「あの後、あいつとは寝たの?」

 鼻先が私の髪をかき分けて、唇が甘く耳たぶを噛む。

 痛い――それに、苦しい。うまく息が吸えなくて、浅い呼吸を繰り返しながら、私は必死に首を横に振る。

「本当に?」

 本当だ。松岡くんとはご飯を食べて、お酒を飲んで、楽しく喋った。ただそれだけ。

 自分の言葉で弁明したいのに、アルコールでドロドロの脳みそが言葉の整理を許さない。身振り手振りで伝えようにも、掴まれている喉の痛みで身動きするのも難しい。

 呼吸ができるぎりぎりの握力で私の首を静かに絞める、玲一さんはびっくりするほど優しく綺麗に笑っている。そうしながら瞬きの一つもせず、探るように、暴くように、じっと私の瞳だけをただまっすぐに見つめている。

「……だめだ。全然わかんない。俺やっぱり嘘見抜くの苦手だな」

 唐突に喉を解放されたせいで、酸素が一気に全身を巡って唐突に頭が痛くなってきた。

 ぜえぜえと息をしながら涙を流す私を見て、玲一さんは唇を寄せてそっと涙を吸い取ってくれる。

 何かがおかしい。このままじゃ危険だ。

 頭ではちゃんとわかっているのに、身体が言うことを聞いてくれない。

「おっと」

 立ち上がろうとした私の身体を、玲一さんがそっと抱き留めた。触れる身体の温もりは今までとずっと変わらないはずなのに、今日はなぜだかひどく怖くて反射的に離れようとする。

「だぁめ」

 腰を強く抱き寄せられて、髪に頬をすり寄せられて。

 いつもだったらすごく嬉しいはずのスキンシップが、身体の底を震わすほどの本能的な恐怖を煽る。怖い。逃げたい。でも、甘すぎるほど甘い抱擁が、私が彼から離れていくことを決して許さない。

「俺に寄りかかって。……そう、歩ける? ベッドはこっち。ソファでもいいけど……」

 ふらつく私の身体を支えて、耳元から吹き込まれた言葉が脳の奥底に沈んでいく。

「――今夜は狂ってもらうからね」
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