初恋カレイドスコープ
「行くの?」
そう玲一さんに訊ねられた時、私ははじめ何の話をされているのかわからなかった。
二人きりの社長室。玲一さんはデスクで頬杖を突きながら、私を糾弾するみたいに険しい眼差しを向けてくる。
私が答えに窮していることに気づくと、彼は呆れたようにため息を吐き、
「さっきの合コン」
と、指先で軽くデスクを叩いた。
「合コン?」
「だから、さっき鮫島に言われてた……もしかして何もわかってないの?」
「あの、鮫島先輩の後輩の人と、何人かで飲むって話ですか」
「それだよ。ンな回りくどい言い方しなくても、ようするにただの合コンでしょ。本気で行くつもり? そんなに鮫島が怖い?」
怖いです。
あ、いや、そうではなく。
「……どうして、そんなことを気にされるんですか?」
できるだけ平静を装って、私は淡々とした声で訊ねる。
玲一さんは軽く唇を内側に丸め、親の説教に不満を抱く子どもみたいにぶすくれている。そのまましばらく無言のにらみ合いが続き、やがて彼は根負けしたみたいに目を逸らすと、
「わかった。俺も行く」
と、唐突に変なことを言いだした。
「いやいやいや社長代理」
「俺だって同世代じゃん。別に行っても文句ないだろ」
「大ありですよやめてください! 社長代理が突然来たら酒の席がお通夜になっちゃうじゃないですか!」
「俺盛り上げるの上手だよ! 酒も飲めるし! なんならその、鮫島の後輩の男になんか適当な女が向かうよういい感じにサポートとかもできるよ!」
「そういう話じゃないんですって! 交流会! お友達作りに行くんです!」
わーっと大声を上げてから、秘書室にいる鮫島先輩に聞かれていないかひやりとする。
なおも自分を売り込もうとする玲一さんの前に書類の山を置き、大急ぎで隣へ回り込んでから、
「とにかく、仕事上の付き合いもありますし、私は参加するつもりなので!」
私はできるだけ強気な声で、口を挟ませないよう言い放った。
「まじでぇ……?」
しょんぼり、という言葉そのものみたいな寂しい顔をして、玲一さんは小動物みたいに視線で私にすがりつく。
……やっぱりお断りしようかな、と、心が揺らいでしまったのは事実だ。
でも、私は自分を奮い立たせて、あえて毅然とした表情を作ると、玲一さんに頭を下げて速足で社長室を後にした。