ハイドアンドシーク
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「お前らもーちょい離れてやれよ。目ぇ悪くすんぞ」
「はーい」
「統理さんたまに母親みたいなこと言うっすよね」
「バカお前、それが統理さんの母性だろうが」
人に母性を感じるな。
呆れつつ、ふと、れんが静かになったことに気付く。
さっきの楽しげな様子とは一変し、俯いた横顔には些細だが焦りが滲んでいた。
「おい──」
大丈夫か、とかけようとした声は。
出てくることなく喉奥に押し戻される。
そんな俺の横を慌ただしく通り抜け、ラウンジから出ていったれんをわざわざ気に留める者はいない。
行くべきではないと頭では分かっていた。
それでも辿るように部屋に戻り、ドアを叩く。
「鹿嶋」
「……」
「鹿嶋、いるんだろ」
返事はないが、向こうで息を潜めている気配はする。
そこに手をかけると鍵はかけられていなかった。
「…入るぞ」
ガタン、とドアが揺れた。
布の擦れる、後ずさる音が聞こえる。
ドアを開けると、れんはすぐそこに座りこんでいた。
頬が上気しているのはおそらく暑さのせいだけじゃない。
「……しののめ、さん」
潤んだ瞳がこちらを向いた。
「…たぶん、また…ヒートきちゃった……」