ハイドアンドシーク
そのままたっぷり数秒は見つめあったあと、先に口を開いたのは東雲さんだった。
「相手ってなに」
「え……?」
「れんお前、事情はどうであれ理事長に話つけてあるんだろ」
やっとの思いで、こくりとうなずく。
「じゃあもちろん寮も一人部屋だよな?」
「ち、違うけど……」
どうやらこの寮は二人一組の相部屋らしく。
わたしはエトーくんって人のところにお邪魔させてもらう手筈になっている。
それを伝えると東雲さんは立ち上がった。
わたしの腕を、掴んで離さないまま。
「あのジジイ……来い、れん」
「え、えっ、ちょっと東雲さん!」
急に引っ張られたらバランスが!
案の定、ぐらりと前のめりになった体。
「ひゃ……っ」
「あぶね」
言葉とは裏腹に腕一本でわたしを難なく支えた東雲さんは、腕じゃなく今度は手をとり直した。
ちらり、ふたたびかち合った視線は一瞬。
なんのとっかかりもなく逸らされる。
「……鈍くさ」
「今のわたしのせい?」
答えない背中を見つめながらふと、思う。
わたしが手を引いたことは何度もあったけれど。
東雲さんに手を引かれるのは、おそらく初めてで。
驚くほどではないにしろ体温の低いその手を。
握り返すことは、できなかった。