ハイドアンドシーク
§




「そんなのってないっすよ!あんまりだ!」


エトーくんはわたしが部屋を移動することに最後まで渋っていた。

どうやらずっとルームメイトが来るのを心待ちにしていたらしい。



「ようやくネットの猛者どものサンドバッグから解放されると思ったのに!鹿嶋レンの野郎と夜通しスマブラするつもりだったのにぃ!」


荷物に書いてあった"鹿嶋レン"の名前を見たのか、おいおいと嘆きながらフルネームで呼ばれる。

念の為にカタカナで書いててよかった。


それよりも、そのあまりの落ち込みようになんだか可哀想になってきた。



うーん……そんなに怖そうなひとじゃないし、"スマブラ"ってなんなのか気になるし。


この人となら同じ部屋でもやっていける気がした。


……けど、



「荷物ってこれだけ?」


東雲さんはエトーくんの嘆きなんて完全無視。

その視線は床に置いてあるたった一箱のダンボールに注がれていた。


無情だ。あまりにも無情すぎる。


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