ハイドアンドシーク
「誰がそこまでラフな格好しろっつったよ」
「え、これお気に入りなのに……」
しゅんとしながら自分の格好を見下ろす。
わたしが着ているのは何の変哲もないTシャツ。
いつものようにサラシで抑えている胸元には、抗議するコーギーの姿がプリントされている。
かわいいのに……。
「他に着るもんなかったわけ。この前買ったやつはどうしたんだよ」
「東雲さんが選んでくれたやつでしょ?なんか勿体なくて着れなくて」
「着ろ。それじゃ買った意味ねーだろ」
結局、わたしはワンピースを着なかった。
だって冷静になって考えたら、いつどこで誰に見られるかわからないし。
葛西くんにはすでに女だってこともバレている。
そんな中、あえて女の子の格好でいるメリットがひとつもなかった。
……いくら、わたしが女の子の姿で、東雲さんの隣を歩きたいと思っていたとしても。