ハイドアンドシーク
その音が聞こえたのかどうか。
ちょっと待ってろ、と言い残して部屋を出ていったかと思えば数分後。
戻ってきたその手にはお盆が持たれていた。
「ん。雑炊」
「ぞうすい……?」
「食べるよな?」
「え……あ、はい。食べます」
差し出されたお盆を膝の上に置いて、雑炊の入ったお椀をそっと持ち上げる。
熱すぎず、かといって冷めてもいない。
そのなかで、ほかほかと湯気の立つごはんと、浮いている黄色い卵はまるでお花みたいだった。
その上にちょこんと乗った緑色は刻まれた葱。
「こ、れ……本当にわたしが食べていいの?」
「いいもなにも、お前に作ったやつだし」
ほら、と木製のスプーンを手渡され、促されるままに一口。
じんわりと口の中に広がる柔らかい味は、とても優しかった。
──美味しい。
“誰か”が作った料理がこんなにも美味しいなんて。
実家にいるときだって、こんなの、一度も、
不覚にも泣きそうになったのを、ごくんと雑炊で流し込んだ。