ハイドアンドシーク
「……いや、もういいわ」
落とされた言葉。
それは諦めや拒絶にもきこえたし、
なにか妥協や納得しているようにもきこえた。
そういえば、と記憶の糸をたぐる。
昔から思ったこともほとんど言わないひとだった。
顔にも出さないから考えてることもわかりづらくて。
なにもかも口にも態度にも出すわたしとはまるで正反対だった……って、
だめだ、この人といたら昔のことばかり考えてしまう。
「っ……東雲さん、まだ?」
「もう着く」
その言葉に、幾分かほっとする。
部屋まで案内してもらったら速やかに別れよう。
……未練がないといえば、嘘になる、けど。
わたしは自分の気持ちを優先できる立場になくて。
これ以上、一緒にいることは。
わたしのためにも、東雲さんのためにもならない。