ハイドアンドシーク
「……ほんとのところ、冗談抜きでよかったとは思ってますよ。わたし、東雲さんに迷惑かけるのだけは本当に嫌だったから」
それに比べれば、わたしの気持ちなんて二の次どころか三の次、四の次でもいい。
へなっと笑うわたしの前髪を東雲さんがかき分ける。
体温を測るように手の甲で触れられた。
「アルファだったら」
「え?」
「もし俺がアルファだったら、お前はどうする?」
どの感情よりも先に、驚きがやってきた。
今まで、その手の話が東雲さんの口から出たことはなかったから。
……もし東雲さんがアルファだったら?
ベータじゃなくて、アルファだったら。
「……わたしはやだ」
だってそうなったら東雲さんにも──、と。
全てを言い終わる前に、その大きな手がわたしの口を塞いでしまった。
「もごご!? もご……、っ」
文句を言おうとして、わたしはそのまま声を詰まらせる。
なんで。
なんで、あなたがそんな顔、
「っぷは! 東雲さん、わたしはっ……」
「あー、わかってる」
東雲さんはもう一度、わかってるから、と言った。
わたしのすぐ隣。
それ以上、何を聞かれても答えるつもりはないのか。
らしくなく、早く食わないと冷めるぞって疎かにしていたスプーンを代わりに差し出してくる。
わたしの幼なじみ、 兼、 好きな人。
そのことを東雲さんはわかってない。
食べさせてもらった雑炊は、やさしさの味がした。