ハイドアンドシーク
わたしは無視して廊下を歩き出す。
けれどすぐ、後ろから葛西くんがついてくるのがわかって、我慢できずに立ち止まってしまった。
オメガの弱点である頸を守るよう、からだの向きを変えて壁に背中をつける。
背筋にひんやりとしたものが走った。
きっとそれは壁の冷たさのせいだけじゃない。
「なんで絡んでくるの。わたしが、オメガのことが嫌いなら無視すればいいでしょ?」
“わたし”
認めてしまったようなものだった。
向こうもそれに気づいたようで、嘲るように口角を弓なりに持ち上げた。
葛西くん。
あなたが知りたいのは本当にわたしのこと?
……本当は、
「東雲さんのことが知りたいんじゃないの」
わたしがそう訊いた瞬間、葛西くんから一切の表情が消えた。
「──ああ、彼?」
だけどそれも一瞬で、わたしが瞬きをしたときにはすでにいつもの飄々とした態度に戻っていた。
「彼のことは昔から知ってるよ。君よりもずっと、ね」