ハイドアンドシーク


「そうそう、庭園つきのあの豪て…」

「あれ葛西くんのおうちなの!?すごいね!」


あの屋根だってちっとも悪趣味なんて思わない。

ピンクといっても派手じゃない、いわゆるくすみピンクだから庭園も相まって西洋のお城みたいですごくお洒落だった。

そもそもずっと団地暮らしだったわたしにとって、あの豪邸やこの学園はまるでお伽噺の世界に迷いこんだような錯覚すら思わせる。


……なんてことを。


そのときばかりは彼と対立していたこともすっぽり頭から抜け落ち、興奮ながらに話してしまう。



前を通るたび、どんな人が住んでるんだろうって気になってはいた。

葛西くんのことだ。

きっと鼻高々に自慢されるかと思いきや、その顔はちっとも嬉しそうじゃなかった。



「すごいのは親であって、僕じゃないよ」


まるで言い慣れているように、それは今まで彼の口から出てきたどの言葉よりも流暢だった。



「…ご両親とあんまりうまくいってないの?」


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