ハイドアンドシーク
葛西くんは肩をすくめたあと、
「うまくいってるよ。君の幼なじみよりはね」
可哀想だよね、と乾いた笑いを漏らした。
「父親にも母親にも置いていかれるってどんな気持ちなのかな」
その頃からずっと、東雲さんはひとりでいたのだと葛西くんは言った。
誰かと一緒にいるところも、遊んでいるところも見たことがないとも。
「ま、なんてことないって顔してたし、実際どうとも思ってなかっただろうけどさ」
……違う。そんなわけない。
どうとも思ってなかったわけがない。
だって東雲さんは今でもずっと──
「彼もアルファならきっと捨てられずに済んだのにね。なんでベータなんかに生まれたんだろうね」
「生きづらそうだね」
「……は?」
「そうやって性別で判断してばっかで疲れない?」
ああだめだ。
やっぱりこの人とはなれ合えない。
わたしはその顔を思いっきり張り倒してやりたいのを堪えて、返事も聞かずに今度こそ背を向けた。
「さあ、もう何とも」
後ろから微かに聞こえた声は、怖いくらいに無機質だった。