ハイドアンドシーク




「いいか?expectだ。お前のはexcept」

「なんかそれどっかで聞いたことある」

「“Don't expect from me”!」


いいから書き直せ、と手元のプリントを無駄に長い指でコツコツ叩かれる。

わたしが指摘された箇所を書き直していると、それを見ていた英語教師が怠そうに息を吐き出した。



「モッチー先生、息お酒くさいんですけど」

「うるせえ。酒くらい好きに飲ませろよ。貴重な土曜だぞ昨日ァ。それともなにか、教師にゃ休日すら必要ないってか?」


どうやら荒れているのは胃だけじゃないらしい。

先生の目の下にある隈はいつもより酷かった。



「今日も貴重な日曜だったのに、補習させちゃってすみません」

「ほんとな。しかもたった1人のためにな。他の教科は優秀なくせに、なんで英語だけ絶望的にできないんだよ。お前だけまだ鎖国してんのか?」

「はあ、すみません」


「あのジジイ、まじで感覚狂ってるって。フツー入れねーよ日曜に授業なんかよお。鹿嶋お前、今度言っといてくれよ俺の代わりにあのポンコツだぬきによぉ」



文句文句、口を開けば文句しか出てこない先生は、それでもわたしが分からないところを訊けば丁寧に教えてくれた。


たぶん、根はいい先生なんだろう。

それにオメガのことも理解してくれてる。


わたしにとってはそれだけで充分、数少ない信用できる大人に違いなかった。


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