ハイドアンドシーク
──私が君に協力したのは、君の母親が心底嫌いだったからだ
理事長室に入った瞬間から、彼がわたしを疎ましく思い始めているのがわかった。
向けられた視線。口調や態度。
どこをとっても好ましいものはひとつもない。
近くに座るよう勧められることもなく、理事長はさっさと本題に入った。
──君を匿ったことで、あの女にはすでにひと泡ふた泡吹かせられた。私としてはもう充分なんだよ。で、君は?金になるわけでもなければ、私の事業の役に立つわけでもない
理事長は蔑むような目でわたしを見やった。
──慈善事業。私がこの世で最も嫌いな言葉だ
わかるね?と訊かれてわたしはこくりと頷いた。
母のことがあったとはいえ、理事長が匿ってくれたのは善意だったから。
もちろん見返りは用意するつもりだった。
卒業後に稼いだお金の何割かを数年間、渡すことになっている。
でもそんなの彼にとっては端金に過ぎないんだろう。
──これ以上、君を置いておく義理はないと思うのだがね
義理はない。
その通りだと思う。
わたしがこの学園にいるメリットはなにもない。
──…もう少しだけ、お願いします。せめて卒業まではここにいさせてください。どうか、お願いします
あるのはただ、わたしの身勝手な欲望。
頭を下げつづけるわたしを、彼はいつまでも冷たい目で見下ろしていた。