ハイドアンドシーク
学園からいちばん近いコンビニでも徒歩10分はかかる。
早足で向かっていたわたしの頬を撫でるように向かい風が通りすぎていく。
「あ、そうだ」
東雲さんも部屋にいるだろうしついでになにか買っていこう。
モッチー先生にトドメを刺すわけにはいかないので、もちろんこれはわたしの自腹。
メッセージを入れると、じゃあ春巻き、とすぐに返ってきた。
わかる。
コンビニの春巻きって美味しいよね。
コンビニでお目当てのものを買えたわたしは、来た道をいそいそと戻る。
まずは寮に寄ってから東雲さんに春巻きを渡して……そこで一緒にお昼食べようかな?
いやでも先生のしじみ汁が……なるべく早く食べて、お湯を入れて持っていってあげよう。
そんなことをひとり考えながら、路地裏の近くを通っているときだった。
後ろから砂利を踏む音がした気がして、何の気なしに振り返る。
少し離れたところに見知らぬ男性がいた。
ぱっと見わたしのお父さんと同年代くらいのその人は、何かに取り憑かれたようにぼうっと突っ立ってこちらを見つめている。
……なんだかちょっと怖い。
踵を返そうとしたとき、ぶわっと一際強い風がわたしたちを襲った。
風に乗ってきた、鼻を刺すような特有の香り。
────あ、だめだ。これ逃げなきゃ。
逃げないと。
でも足がうごかない。
迫っている。
くらりと目眩がした。
アルファの、強烈な匂いが。
もうすぐそこまで迫っている。
もう、すぐそこに、手が
──────頬に強い衝撃が走った。