ハイドアンドシーク


「っ、おい、何があった。しっかりしろ」


補習があるから、と。

今朝もいつものようにつけていたウィッグが今にも取れそうなほどに乱れている。


咄嗟に見やったうなじには汗が滲んでいるだけで、特に噛み跡などは見られない。


もう一度呼びかけると、ようやく顔をあげた。



見慣れた顔。
 
ただ違うのは、口の端が血で汚れていた。

たった今も、口元をつう、と伝っている。



「…どうした、それ」


手を伸ばす。

触れる直前に、れんが後ずさった。


顎を伝った血がぽたりと床を濡らす。



「東雲さん、いま、だめ」


言われて、眩暈がするほどの匂いに気付く。

最近はほとんど感じなくなっていたそれは、今まさにれんが放っているフェロモンだった。


いまは説明している余裕もないのか、れんは俺が持っていた上着に手を伸ばした。




「ごめん、これ、ちょっと貸してくれますか……?」


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