ハイドアンドシーク
アルファにあてられた。
アルファに、あてられたのは初めてだった。
「れん」
ドア越しに声がかかる。
その声はどこか怒っているようにも聞こえた。
当然といえば、当然かもしれない。
帰ってきてそうそう、なんの説明もなしに脱衣所に閉じこもられたら誰だってそうなる。
だけど今ここを開けるわけにはいかなかった。
「…なに」
「それ、こっちの台詞なんだけど。なにがあった」
「…ちょっと、人と揉めた、だけだから」
「揉めただけだったら、そうはならねぇだろ。…一方的に、なんかされたりとか」
「だったら、ここにいないですって」
アルファに襲われたのは事実だ。
それでも、なんとか隙を突いて逃げ切れたのは不幸中の幸いだった。
あのままだったら多分、本当にここにはいなかった。
わたしってもしかして強いのかも。
自分の身体が震えているのに気づいて、そっと東雲さんの上着を胸に抱きしめた。
さっき無理言って貸してもらったやつだ。
こうしているだけで、よかった。
ヒートはこれからもっと酷くなる。
だから、心だけは。
「れん。前に言ったあれ、ちゃんと考えてんの」