ハイドアンドシーク
「あなたの目には、私が鬼のような親に映っているんでしょうね」
「……そんなこと、」
「食や住に関して必要なものはすべて用意したわ。恋が恋らしく生きられるよう、最善の道を提案してきたつもり。だけど、心の問題は無理だった」
淡々と客観的に述べられる。
まるで研究の報告書を聞かされているような気持ちになった。
たしかに、母がわたしに与えてくれたのはすべて目に見えるものだった。
病気とかヒートとか、親に関心を向けられるのはあきらかに具合が"悪い"ときだけで。
わたしが小学生の頃にかけっこで1位になったときも、テストで良い点を取ったときも、一緒になって喜んでくれた記憶はなかった。
今だったらわかる。
そうしないと、そういうときじゃないと、お母さんはわたしを甘やかせられなかったのだ。
「……親はね、恋。どんな親でも、自分の子どもには幸せになってほしいのよ」
ぞっとするほど静かで、なめらかな声だった。
いつだってそうだ。
わたしになにかを言い聞かせるとき、こうやって感情を抑えたように母は話す。
自分だって我慢しているのだと、これ以上迷惑をかけるなと、わたしに知らしめるように。
「だから私は、オメガのあなたでも幸せに生きていける道を見つけた。それが親の使命だから」