ハイドアンドシーク
「や、やだ。東雲さんと一緒の部屋になりたくない」
抱えていた荷物を取り上げられる。
あっけなく手放してしまったそれを、東雲さんは邪魔にならない場所に下ろしながら口を開いた。
「なるしかねーだろ」
「やだ!」
「やだじゃねえ。じゃあお前、自分が女だってこと四六時中隠し通せんの?万が一バレたときも──」
肩に触れられたと気づいたときには、すでにベッドに押し倒されていた。
慣れた手つきでシーツに手首を縫いとめられる。
「その気にさせた男の力に敵うわけ?」
「……っ」
やだ、も、やめて、も。
なんの言葉も出ないまま、目の前の冷ややかな双眸を見つめ返すことしかできないでいると。
「は、抵抗すらしねーじゃん。そんなんでよくやだとか言えんな」
するりと手首の拘束が解かれる。
それ以上なにも言わず、東雲さんは部屋を出ていってしまった。
わたしも無言のままベッドから起きあがって。
なんの痕もついてない手首を、そっと撫でる。
自由になったはずなのに、心も身体も重かった。
「……しないもん。抵抗なんて、するわけない」
そのあと荷解きを終え、
夜が更けても寝ずに待っていたけれど。
とうとう東雲さんが帰ってくることはなく。
見知らぬ土地、家主のいない部屋。
慣れないベッドとシーツに身を包まれながら。
わたしは転校初日……いや、
────逃亡1日目を、終えた。