ハイドアンドシーク
「それってどういう──」
わたしの言葉を遮るように。
滅多に鳴らないインターホンが鳴った。
お母さんは、自分の隣で所在なさげに座っていた父に目配せをした。
ハッとなった父が慌てて玄関へ向かう。
「恋、なにも心配しなくていいわ。お母さんの言うとおりにしていれば、みんな幸せになれる」
慈愛に満ちた、その目は。
今から起こることがわたしのためになると、本気で思っているようだった。
わたしは気づけば「お母さん」と声をかけていた。
「もしわたしがお母さんの子どもじゃなくても、親の使命なんてなくても、わたしを愛してくれた?」
「もちろんよ」
お母さんはきっと気づいてない。
思ってもないことをとっさに口にしてしまったせいで引きつっている、その頬に。
視界がじわりと滲んでいく。
それをどう捉えたのか、お母さんはふっと目を細めて聖母のようにほほ笑んだ。
玄関のほうからお父さんの声がする。
誰か、知らない男の人と話してる。
聖母は宣う。
「恋。高校を卒業したら結婚しなさい」