ハイドアンドシーク
冷やしているのとは反対側の頬をつねられる。
容赦のなさに思わずわたしが笑い出せば、張りつめた空気がようやく少し緩んだ気がした。
この空気を壊すのに躊躇した。
だけど、それを伝えるのは今しかない。
「前、わたしに、もし自分がアルファだったら…って言ったこと、覚えてる?」
「…お前にはやだって言われたけどな」
「っ……だって、そうなったら東雲さんにも運命の番ができちゃうから」
言いたくなかった、こんなこと。
アルファとオメガが本能的に惹かれ合う、世界にたった1人しかいない運命の番。
それをいやだと否定するのは、東雲さんの幸せを否定するのも同然だった。
「そこはお前じゃねーのかよ」
「……わたしにはもういるもん」
「誰」
「…………婚約者」
それを奇跡と呼んでいいのかわからない。
わたしの運命の番は、
お母さんが偶然連れてきたその婚約者だった。
「わかったの。初めて顔を合わせたとき、…本能で。向こうも同じことを思ったみたいで、婚約の話はトントン拍子に進んだ」