ハイドアンドシーク
アルファに殴られたときよりもずっと大きな衝撃に、わたしの頭は一瞬で混乱してしまった。
"一緒にいればいい"
それは、だったらいいなと何度も空想したこと。
それでも叶うはずがないと諦めていたこと。
「れん」
名前が呼ばれる。
いつしかわたしのことを名前でしか呼ばなくなっていた東雲さんは、言った。
「好きなんだよ、お前のことが」
「…どしたの今更」
「今更いう意味での好きってこと」
わたしはとっさに自分の頬を叩いた。
痛い。
しかも間違えて怪我してるほうにしちゃった。
まだ信じられなくて、これは夢だと思って。
今度こそ反対側の頬を引っ張ろうとしたとき、その手を東雲さんに掴まれた。
「なにで悩んでんだっけ」
「なにって、」
「だから、おまえの中で何がそんなに気がかりなんだって聞いてんの。教えろよ、全部」
「……、これ以上迷惑かけられないから。東雲さんとは番うことができないから。……東雲さんの未来を、奪うことになるから」
「そう。で、あとは?」
少し考えて、ふるふると首を横にふる。
すると東雲さんは呆れたように額に手をやり、それから深く息を吐いた。