ハイドアンドシーク
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──ぽたり。
リノリウムに沈んだ赤に、意識が浮上する。
「あの、よかったらこれ使って」
なんだか、それが妙に気になって。
考えるより先にからだが動いていた。
前を歩いていた男が立ち止まると、点々と続いていた道しるべもそこで途切れて。
差し出したハンカチ。
それをまるで異物でも見るように睨めつけている。
「さっきので、口んとこから血、出てる」
おそらく同級だろうと踏んでタメ口で話す。
そうじゃなくてもわたしは3年だから問題ない、はず。
「はい。返さなくてもいいから」
なかなか受け取らなかったので、半ば押しつけるようにハンカチを渡した。
「……男のくせに」
「男でもハンカチくらい持ってるでしょ」
たぶん、と心の中でつけ足す。
向こうが何も言わずに歩き出したので、わたしも大人しくついていくことにした。
まだ日は沈んでいないというのに、
ここは仄暗く、どこか退廃的な雰囲気さえ漂わせている。
男が立ち止まったのはいきなりだった。
どうしたのかと思えば、すっと左手にある廊下の先を指差して。
「ここから先はひとりで行け」
え、と思ったけれど。
有無を言わせない威圧に、なにも訊かず素直に従うしかなかった。