ハイドアンドシーク
「鹿嶋」
「っ、はい?」
「お前、あんま西棟には近づくなよ」
冥皇にやってきて1週間が経った頃。
相変わらず空気が滞っていた二人部屋で、唐突に話しかけられたからびくりと肩を揺らしてしまう。
こうして面と向かって話すのは初日ぶりだった。
「……なんで?」
少し間があり、管轄外だから、とだけ返ってきた。
数日前、クラスメイトが教えてくれたことを頭の中でおさらいする。
まず、この学園は"東"と"西"で対立している。
それぞれにトップがいて、東を統べているのがわたしの幼なじみだった、東雲統理。
仲間たちからの信頼も厚く、人を惹きつけながらも容易には寄せつけない棘をもっている。
西のトップはどんなひとかわからない。
東と西、どっちにも属するつもりはなかったけど。
東雲さんがいるなら、わたしは、
「向こうの奴らも用がない限りこっちには来ない。だからお前もほいほい行くなよ。そんときは、」
なかなか続きを言わない。
焦れて促すように声をかける。
「そのときは?」
「……俺を呼べ」
……呼んでいいの?本当に?
でも余計なことを言って「やっぱ呼ぶな」って言われたらいやだから、わかったと大人しく返事をするだけに留めておいた。