ハイドアンドシーク


話はそれだけだったのか、東雲さんは口を閉ざした。


それでもこっちが未練がましく見ていたせいか、向こうも視線は外さなかった。

だからわたしはもっと目を逸らせなくなって。


しばらく見つめ合ったのち、先にふいと逸らしたのは東雲さんだった。




「……鹿嶋、まだあの団地に住んでんの」



かしま、と。

慣れないように呼ばれた苗字。


名前じゃなくて苗字で呼んでほしいって、わたしが頼んだから。

理由は、訊かれなかった。



「うん」

「あそこからここまで何百キロもあんじゃん。わざわざ寮に入ったっつーことは、ひとりで来たんだろ」



間違いではなかったので、小さくうなずく。



「なに、家出?」

「違うよ」

「……ふーん、家出ね」


否定したのに、東雲さんは確信したようだった。

ちょっと待って、いま、なに見たの。


内心焦っていると、ほんの少し目を細められた。

それは嘲りというよりも、なにかを懐かしむようなものだったから──


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