ハイドアンドシーク
男と別れてしばらく歩いた先に見えてきた扉は、彼が教えてくれた特徴と一致していた。
来る者を拒み、ひとたび入れば去る者を逃がさんばかりの重厚な扉。
その中心にまるで心臓のように嵌め込まれていたのは。
たった一粒の、燃えるような紅い宝石。
ルビー……いや、これはガーネットだ。
馴染みの深かったその宝石を見ているうちに、またしても昔の記憶が思い起こされそうになる。
……過去なんて。
懐かしんだところで、どうにもならない。
わたしが考えないといけないのはこれからのこと。
いまさらジワジワと暴れ出す心臓。
意を決してノックをすると、待ち構えていたように扉が内側から開かれた。
「遅かったな。まあ、入れよ」
中にいた守衛のような男たちに両脇を固められ、そのまま部屋の奥まで連れていかれる。
挨拶しろ、と背中を小突かれた先にいたのは。
黒革のソファに腰かけた一人の男。
気怠そうに脚を投げ出している。
いかにも寝起きですといった顔は、伏せられていてよく見えなかった。
「……初めま……、」
そのとき男が不意にやった、その動作に。
心臓が止まったような気がした。