ハイドアンドシーク
でも東雲さんは反応してくれなくて、聞こえなかったのかなと思ってもう一度「この前はごめんなさい」と声をかけた。
……やっぱり、反応はない。
ぐっと込みあがってきた感情が喉まで出かかった。
なんとかそれを抑えながら東雲さんに歩み寄る。
「ねえ、無視、しないで……」
────ガッ、と。
足元が疎かになっていたわたしは、なにかに躓いて転んでしまった。
どこまでも鈍くさい自分に嫌気が差す。
死にたくなった。
さすがにこれは無視できなかったのか、さっと素早く東雲さんが振り返り。
「は……」
床に手をついているわたしを見て、片耳からなにかを抜き取った。
それがワイヤレスイヤホンだとわかったとき。
自分が無視されていたわけじゃないことにようやく気づいた。
そもそも東雲さんはそんなひとじゃないことを、わたしは、ちゃんと知っていたはずなのに。