ハイドアンドシーク
「でも、寒いの苦手なのに」
空になったお弁当に蓋をしながら、ふと思ったことを呟いた。
独り言のつもりだったのにどうやら東雲さんにも聞こえてしまったようで。
「母方の実家がこの辺りだったんだよ」
「母方……おばさんの?」
言われて、いつも綺麗にしていた東雲さんの母親を思い出す。
恋ちゃんはいい子だね可愛いねってわたしにも優しくしてくれていた、素敵なひとだった。
「そっか。おばさんたち元気?」
「知らねぇ。親父が蒸発して夜逃げ同然でこっちに来たあと、俺を預けて母親もどっか行ったわけ」
まあ、と東雲さんが続ける。
「もう祖父母もいねーし、卒業したら向こうに戻るつもり」
ここまじで寒いしな、なんて。
とっくにお弁当を食べ終えていた彼から明かされた、わたしの知らない東雲さんの半生。
重苦しくも、かといって無理やり流すような口調でもない。
それだけでもう東雲さんが、そのことに関して乗り越えていることがわかった。
……吹っ切れた、かもしれないけど。