ハイドアンドシーク
「……それ聞いてないんだけど」
「ちょうど東雲さんが引っ越した直後くらいだったから。それに、もし東雲さんがいたとしても、言ってなかったと思う」
束の間、目が合った。
不安と、少しの怯えを含んでいる深青の瞳。
……ああ、まあ、そりゃそうか。
初日に散々脅したもんな。
言い淀んでいた理由は、オメガだと知られて俺に襲われることを危惧していたからだったらしい。
それならそれでいい、が。
「東雲さ…」
「西の、葛西って奴にも気をつけろ」
「え?」
俺も対峙したことはほとんどない。
それでも、詐欺師のようなその男の胡散臭い笑みは易々と思い出せる。
「葛西は──ここで唯一のアルファだ」
「アルファ……」
「だから絶対、西棟には行くな」