ハイドアンドシーク
「違うその逆。抑制剤で発情もフェロモンもほとんど抑えられるから、わたしに気を遣って無理に部屋あけようとしないでほしいんです」
東雲さんのことだから。
ここに来たばかりの頃によく部屋をあけていたのも、わたしを気遣ってのことだったんだろう。
いや、まだ他の可能性も捨てきれないけど。
ともかく東雲さんにはここにいてほしかった。
だって、……だって、
「まだ夜は冷えますよ。東雲さん野垂れ死んじゃう」
わたしだって肌寒いと感じるほどなのに。
すると東雲さんがこちらに手を伸ばしてきて、
「ひとを犬みたいに言うなよ」
「い、いひゃい……」
頬をぐにんと摘まれたけど、最終的にヒート中もいつも通りでいることを了承してくれた東雲さん。
そのことにほっと安堵しながら、やっぱり不安が全くないわけではなかったけれど……
「大丈夫。これまで何回も経験してるんです。今まで何もなかったし、今回も何事もなく終わりますから」
そして、とうとうその日がやってきた。