ハイドアンドシーク
それでも、そろそろ部屋に戻ろうかなと思っていたときだった。
ギリギリえっちじゃない雑誌をめくっていたひとりが、ふと思い出したように顔をあげたのは。
「なあ、ずっと気になってたんだけどさぁ」
「何?誰?」
「カシマ。鹿嶋の髪って全然伸びねーよな」
「へっ……?」
すでに立ち上がっていたわたしが目をぱちくりするのをよそに、あーたしかにと何人かが話に加わった。
わたしは自分の髪──ウィッグに触れる。
「そう?」
「いつ見ても同じ長さじゃん。かといって散髪に行ってる感じでもねぇし。どーなってんのそれ」
語尾に(笑)って付いてるような言い方だったから、たぶん本気で知りたいわけじゃない。
ただちょっと気になって聞いてみた、ってだけで。
あんまり隠してばかりも逆に疑われそうだし、毛先くらいなら触らせてあげてもいいかなーって伸びてくる手を見つめていたとき。
ぐん、と。
後ろから身体をかっ攫われた。
「鹿嶋」
すぐ頭上から降ってくる落ち着いた低い声。
振り返らなくても、後ろに誰がいるかなんて明白で。
わたしを引き寄せてもしばらくの間は、お腹に回された腕が緩められることはなかった。