ハイドアンドシーク
「東雲さんが言ったんじゃん」
泣かないようにと決めたあの日の決意はどこへやら。
ぽろりとあっけなく零れた涙を拭うこともせず、おもむろにウィッグに手をかける。
露わになった胸の辺りまである黒髪が、重力にしたがって流れ落ちた。
「っ、どーせ、どうせテキトー言ったんだ。バカみたい、わたしだけが全部憶えてて……っ」
少し癖のあるそれは、わたしなりに、ずっと大切にしてきたものだった。
東雲さんに言われてからずっと──
「とぉ、し、東雲さんがっ、わたしの髪、長いのっ、す、好きって言ってくれたから、だからっ……」
そんなこと言われたって、ってなるに決まってる。
昔のことなんて誰だって忘れるだろうし、それが些細なひと言だったら尚さらだ。
東雲さんは悪くない。
悪くないから、これ以上なにも言えなくて、醜態をさらしたくなくて、寝て忘れてしまおうと思って。
わたしはベッドに潜り、布団を頭まで被った。