ハイドアンドシーク
「東雲さん!?」
「危なっかしいっつったんだよ」
「はい嘘、ぜーったい嘘!わたし聞こえたもん、なんかがよくないって東雲さん言ったもん」
「そこまで聞こえてんなら全部聞き取れっての」
はあ、と深い息を吐きながら東雲さんがわたしの上から退いた。
微かにかけられていた重みがなくなって、わたしはその体勢のままむすっと頬を膨らませる。
「東雲さんのバカ、意地っ張り、言葉足らず」
「馬鹿嶋」
「なんです…馬鹿嶋ぁ!?」
「一回しか言わねーから、よく聞け」
耳元に口を寄せられて、
「髪、長いほうが似合ってる」
そして降ってきた布団に視界を塞がれた。
はっとしてそれを剥ぎ取ったときには、すでに部屋に東雲さんの姿はなくて。
ベッドの上には、床に投げ捨ててあったはずのウィッグが置かれていた。
わたしは前屈みになりながら、自分の髪ごと心臓のあたりをぎゅっと掴む。
「ほんっと…………ほんっっとさぁ〜…、」
かけられた言葉は甘い魔法なんかじゃない。
それよりももっと甘くて切ない、呪いだった。