ハイドアンドシーク
「…これ、東雲さんの趣味じゃないですよね」
「なんで俺の趣味を把握してんだよ」
広げてみると、胸元には可愛らしいクマの刺繍が。
あ、かわいい。
でもたしかにこれは東雲さん着られないな、と。
なんだか釈然としない気持ちでいると、
「せめてそれ着とけ」
「……でも、これ」
「心配しなくても袖通してねーから、一回も」
わたしの気持ちなんて知りもせず、的はずれなことを言ってくる。
しぶしぶ袖を通すけど、もちろん東雲さんの匂いなんてしなかった。
「どう?」
腕を広げて見せるけど、反応は芳しくない。
もっと男に見えなくなったのかも。
だって胸にクマちゃんついてるし。
「お前もうずっとブレザー着とけよ」
「やですよ暑いもん。これでも我慢したほうだって」
6月にしては異例の暑さで、周りはすっかり夏服に移行していた。
いくら一回り大きく見せられるとしても、その中でわたしだけブレザーでいるのは不自然極まりない。