失恋カレシ〜2.5次元王子様と甘々極秘契約同棲はじめます!?〜
「なんで今さら、真宙と」
(こ、怖……)
「……その、やり直そうって言われてて」
 波音が目を見張る。
「まさか桜、真宙と……」
「ち、違うよ!? 寄りを戻す気なんてないよ!? ただ、返事は直接したほうがいいと思って、来週会う約束をしたの。だから、それが片付くまで波音に会うのはやめようと思ってて……」
「だから今日も、連絡なしで来てくれたの?」
 こくりと頷く。
「……返事なんて、メッセージですればいいじゃん」
「それは……私は、そうやって真宙くんにふられて、寂しかったから。こういう話は、気まずくても、辛くてもちゃんと相手の顔を見て話したほうがいいと思って」
 本音を言うと、
「そっか」
 桜らしい、と波音は柔らかく笑った。
「……そういうことなら、分かった。大丈夫、待つよ。これでも俺、六年以上桜のこと見守ってたんだからね。一週間くらい余裕」
(よかった……)
「ありが……」
「って言いたいところだけど」
「?」
「無理。やっぱ無理。真宙に会わせたくない。真宙に桜を会わせたくもない」
「えっ……」
 ぎゅっと腕の中に閉じ込められる。
「だって桜、六年も真宙のこと好きだったんだよ。また会ったら、気持ちがそっちに流れちゃいそうな気がして、怖いんだよ」
「そ、そんなことあるわけないよ」
「分かってる……桜を信じたいんだけど……でも」 
 駄々っ子のような波音に、私は小さく苦笑する。
「波音」
 私は波音の手をそっと握る。
「私、波音が好き。波音と付き合いたいと思ってるよ」
 波音の顔がみるみる赤くなっていく。
「これで、安心してくれる?」
「……する」
 ぽそっと呟いた。
「我慢、する……その代わり、真宙に会いに行ったらその足で俺にも会いに来て」
「……分かった」
「絶対だよ?」
「うん」
 まだ付き合ったわけではないのに、心がぽかぽかする。
 微笑み合っていたときだった。 
「ちょ、押さないでよ」
「だって見えないんだよ」
「え、なんです? 絢瀬さんの控え室、なにかあるんです?」
 扉付近から声がした。波音と顔を見合わせてからそちらを見ると、扉がうっすら開いている。
「!?」
 波音が扉を開けると、そこには沙羅と七木さん、それからヒロイン役の女優さんがいた。
「あーバレちゃった」
「君たち、ここは仕事場ですよ?」
「あ、絢瀬さんお疲れ様です。あれ? そちらの方は?」
「……お前らなんでいんだよ……」
 波音は三人を見て、心底迷惑そうな顔をした。
「なんでって心外だな。俺たち、誰より協力してたと思うんだけど」
「そうよ! このくらい減るもんじゃないしいいじゃない!」
 波音がわしゃわしゃと頭を搔く。
「あーもう、ハイハイ。今までお世話になりました」
「よかったな、波音。これでようやくお前に愚痴酒付き合わされなくて済むわ」
「いや、なんだかんだ楽しかっただろ」
「まぁな」
 波音と七木さんは笑い合っている。ふたりは本当に仲がいい。
 沙羅は私に駆け寄り、ぎゅっと抱きついてきた。
「桜、良かったね。波音と両想いになれて」
「う、うん……沙羅、ありがとう」
 でも。
(一体どこから見られてたんだろう……ものすごく恥ずかしい……)
 ちらりと見ると、波音は平然としているし。
(やっぱり俳優さんってすごい……)
「……で、なんの用だったんだ?」と、波音はヒロインの女性を見る。
 近くで見るとびっくりするくらい綺麗な人だった。
「あぁ、これから打ち上げだって。みんな座長を待ってますよ」
「……ん。今行く」
「それじゃ、私たちも飲み行きましょうか、桜。いろいろ話聞きたいし」
 沙羅はそう言って、にこやかに私の腕を掴んだ。
「はい、解散~」
 こうして、『失恋カレシ』はハッピーエンドで幕を閉じたのだった。
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