目覚めない夫を前に泣き腫らして、悲劇のヒロインを気取る暇なんてなかった。

01.


 十八の頃までの私は、とても愚かだったと思う。



 国内でもそれなりに力のあるヴァルテンブルク伯爵家。私はその長女に生まれ、甘やかされて育てられた。
 欲しいと思ったものはすぐに手に入ったし、そうならなかったことはないから、ずっとそれが当たり前だと思っていた。
 宝石、花、洋服、化粧品、お菓子、その他諸々の嗜好品。
 物品だけでなく、娯楽としての遠出や催事にも事欠かず、たとえば私の毎年の誕生日には、屋敷をあげての盛大なパーティーが開かれた。
 逆に言うなら、どれも簡単に手に入ったせいで、「これこそは絶対に」と思うくらいに欲したものが今までの人生にはなかった。
 
 それは人付き合いにおいても同じだった。 
 言外での気遣いだとか、そんなものを察する必要のない毎日。
 誰もが私のわがままを聞き入れ、我慢だとか否定されるということを知らない。
 反面、挫折を知らないから大きな望みもない。
 それは他人にとっては与しやすい相手ということでもあり、私は深みのない人間関係しか持たず、良くも悪くも『お気楽なお嬢様』でしかなかった。

 つまり、友人も、使用人も、家族も。適当に私のご機嫌を取っておけば問題が生じない、それだけのこと。
 私という人間は、誰にとってもそんな感じの存在だったのだ。

 一番身近な両親や兄でさえも、愛玩動物的な可愛がり方しかしない。
 無論、家族としての愛情もそれなりにはあったけど、頭の回転が速く、学業も優秀で家督を継ぐ予定の兄に比べ、私の出来は数段劣っており、何につけても両親からは期待というものをされたことがなかった。
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