目覚めない夫を前に泣き腫らして、悲劇のヒロインを気取る暇なんてなかった。
けれど、その後も雨脚は弱まることなく、外は暗いままだった。
そのうち雷が鳴り出して、稲光とともに轟音がこだまする。
ガカッ、ガラガラ、ドーンドーン、と。
それはだんだんとあばら家に近づいて来て。
怖くなって「この小屋に落ちたりしないかしら」と言うと、彼は「ここは屋根が低いから、雷が落ちるとしてもまず風車小屋だな」と冷静な答えを聞かせてくれた。
だけど、何故だか不安な感覚がぬぐえなかった。
今にして思えば、何か予感めいたものがあったのかもしれない。
我知らず、隣にいる彼のシャツの袖をつまんで離さずにいると、私の心情を読み取った夫は、出立の準備をしておこうかと優しく進言してくれた。