目覚めない夫を前に泣き腫らして、悲劇のヒロインを気取る暇なんてなかった。
「そうね、そうしましょう。ありがとう──」
そう言って、私が謝意を述べかけた時だった。
その言葉をかき消すように、これまでで一番の雷音が打ち付ける。
思わず私は身をすくめ、彼は私の体を覆うように抱き留める。
雷はカミルの言った通り、隣の風車小屋へと引き寄せられた。
しかし、ここから先は彼でさえ想像しなかったことだった。
焼けて崩れかけた風車の鉄翼が、風にあおられ私たちの小屋へと突き刺さったのだ。
窓ガラスが割れ、壁が崩れ、二人はそのまま吹き飛ばされた。
ちょうど身をかがめていた私は、何が起きたのかわからずに。
隣にいた夫は、飛礫から私を守るようにして。
私が痛みから身を起こした時、彼は頭から血を流して、倒れていて。
そして夫は、目覚めることのない……深い深い眠りの中に……落ちてしまった。