目覚めない夫を前に泣き腫らして、悲劇のヒロインを気取る暇なんてなかった。
05.
私はというと無事だった。怪我も奇跡的に軽傷で済んでいた。
でも、その後どうやって屋敷へ帰ったのかまるで覚えていない。
多分、先に一人で戻って、助けを呼んで、皆に彼を運んでもらったのだと思うけど。
脳が記憶を封じ込めているみたいで、その時のことを思い出そうとすると、頭痛がして先へ進めなくなるのだ。
きっと、あまりにも辛すぎるからだと思う。
「正直申し上げまして、生きておられることが奇跡なんです」
主治医の先生はベッドに横たわるカミルを診た後、感情を排した口調で言った。
そう、夫は死んでしまったわけじゃない。
けれど、ずっと目を覚まさなかった。
眠り続けている。
傷ついた箇所が致命的なところだったらしく、今後も目が覚めるかはわからないと言われた。
また、運良く意識が戻っても、その後の生活では歩くことにも苦労するだろうと言われた。
領外からも腕の立つ魔術医を呼んで、大掛かりな手術が行われ、なんとか命を繋ぎとめたけど、たった一日でとてつもなく大きなものが失われてしまった。
その代わりに残ったのは……絶望だけだった。