目覚めない夫を前に泣き腫らして、悲劇のヒロインを気取る暇なんてなかった。
08.
「カミル……あぁ、カミル、カミル!」
朗報を聞き、矢も楯もたまらず、私ははしたなくも走って部屋へと駆け付ける。
そんな私に、カミルは以前と変わらない微笑みで返してくれた。
「……やあ、リタ。素敵なレディになったな。ずいぶんと大人っぽくなった」
「カミル、あなたはどこまで……意識を失った時の、ことは……」
「……覚えてるよ」
「小屋で休んでいたら、雷が落ちて……」
「風車が小屋に飛んできて……壁が壊れたんだったな」
「あなたは、私をかばって……守ってくれたんです」
「そうだったか……? まあ……あまり気にするな」
でも、八年という時間は、本当にあまりにも長すぎた。
彼の身体はあの時とまったく違う。
女の私よりもか細く、手折れてしまいそうな四肢となり果てて。
そんな夫の姿を改めて視界に入れた時、何故だかわからないけど涙があふれてきた。