目覚めない夫を前に泣き腫らして、悲劇のヒロインを気取る暇なんてなかった。
ゆっくりと手が上げられ、白い指が私の目もとに触れて、流れる涙をぬぐってゆく。
結局、その一言、その一触れだけで抑えが利かなくなるほど、私は弱い心しか持ち合わせていなかったのだろう。
こんな時でさえ、私はカミルに支えられていた。彼の存在こそが、ずっと私の救いだったのだ。
……そう、そんな単純な事実に──今、ようやく気が付いたのだった。