目覚めない夫を前に泣き腫らして、悲劇のヒロインを気取る暇なんてなかった。
しかも、フォルストはこの時点で『時戻りの実』のありかにまでたどり着いていた。
国境沿いの森に住まう魔女。彼女がその果実を手に入れており、フォルストはすでに接触した後だという。
「魔女の作る秘薬はどれも効果は確かなもので、性格はともかく腕は信用できると思われます。ただ、その果実は五十年に一つ実るかという代物で、しかも時をさかのぼったかは食べた本人にしかわからないため、今までおとぎ話としてしか伝っていなかったそうです」
「ああ、なるほどね……」
確かにそういう経緯があったのなら、ほとんど知る人がいなかったこともうなずける。
「ですが、つい先日、魔女がその実を収穫したと聞きまして、わたくしは彼女の店に足を運びました。ただ、魔女は奥様にお会いして、直にあなたを見てからでなければその実は売らないと言うのです」
「私に……?」
「はい」
あえて確認もしなかったけど、私やフォルストが実の存在を知ってここまで真剣になるのは共通の目的があるからだった。
それは言わずもがな、カミルを事故前の元気な状態にまで戻すこと。
与太話ならともかくとして、実の効能が真実なら、それは何を差し置いても手に入れるべきものといえる。
フォルストもそれをわかっていて、真っ先に調査して魔女にまで行き着いていてくれた。
ともすれば私が関与する前に、彼の独力で実を手に入れられる可能性すらあった。
しかし魔女は、妻である私に会って、それから売るかどうかを決めるという。
──そして。
どんな無理難題をふっかけられるのかと恐れつつ、出かけて行った魔女の住処で。