目覚めない夫を前に泣き腫らして、悲劇のヒロインを気取る暇なんてなかった。
「別に深い意味があるわけじゃないさ。でも、この実一つで歴史を変えることだって出来ちまうんだからね。悪いヤツの手に渡らないようにしたい。あたしが考えてるのはそれだけだよ。ま、あんたはそういう輩じゃなさそうだ。いいよ、売ってやっても」
そんな魔女の言葉を聞いて、私は、なあんだ、と脱力した。
単純だけど、ちゃんと理解できる理由。そして、ありがたいことにどうやら私は彼女のお眼鏡にかなったらしい。
けれどその後に、魔女は少々意地の悪い顔で値段を言う。
私は思わず聞き返す。
「一人分しかなくて……に……二千万……ですか?」
「こいつは曲がりなりにも奇跡を起こす実だからね。それなりの対価は払ってもらうよ。それに家も最近、家族が一人増えてねえ。歳も取ったし、先立つものは何かと必要になるわけさ」
「はぁ」
魔女の家庭事情は知らないけど、確かにこれほど貴重な実なら、それくらいの値段は妥当かもしれない。
私は頭の中でそろばんを弾き倒し、どこからお金を工面するかを即座に計算する。
……うん。あそこの土地を担保にして、結婚指輪も、屋敷の調度品も、この際全部売ってしまって……。それなら何とか工面できそうだ。
「わかりました」と私が言うと、魔女は「毎度」と口角を上げる。
それから彼女は果実の詳細な効果を説明してくれた。