目覚めない夫を前に泣き腫らして、悲劇のヒロインを気取る暇なんてなかった。

「……駄目だ」

「……!? ど、どうしてですか!?」

「『時戻りの実』は、君が飲むべきだ。俺はもういい。もう十分に幸せだった。これ以上望むことはない。それより、君に幸せになってもらいたいんだ」

「わ、私が……? な……何を言ってるんですか……!」

 突然の拒絶と、譲渡の申し出。
 まったく意味が分からなかった。
 夫の言っていることが、頭に入ってこなかった。
 この八年間、彼のためにこんなにも頑張ってきたのに。やっと苦労が報われると思ったのに。
 それをいらないだなんて。どういうことなのか。
 カミル、あなたは一体何を考えているの。

「……だからこそだよ。君が頑張ってきたからこそだ。これ以上、俺のために君の人生を無駄にさせたくないんだ」

「無駄なんかじゃ……ふざけないで下さい……!」

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