目覚めない夫を前に泣き腫らして、悲劇のヒロインを気取る暇なんてなかった。
この時、私は初めて夫に怒りというものを抱いた。
私のやってきたことは決して無駄なんかじゃなかった。
あなたのために、あなたが生き続けることが私の幸せだったのだから。
それが今、こうして叶うところまで来ているのに。
それなのにどうして、あなたはそれをはねつけるのか。わけがわからない。
「……だって、八年だぞ。君も、フォルストたちも、目覚めるかもわからない俺の帰りを待ち続けて、しかも今度はこんな状態の俺を過去へと送り返そうとしている。さっきの君の説明からすれば、実を食べた俺はこの世界から消えてしまうんだ。それなら、皆にとっては死のうが逆行しようが変わらないじゃないか。……だから、俺じゃない。過去をやり直すのは、少なくとも俺であるべきじゃないんだよ」
「……答えになってません!」
「なってるさ。俺は君のことを言ってるんだ。人生で一番輝いているはずの時期を、俺なんかのために、耐え忍ぶことだけに君は使ってしまった。その辛苦は、ただ眠っていただけの俺とは比べようもない。それを取り戻して欲しいと言っているんだ」
この人は。私の愛する夫は。
こんな状況でも、自分ではなく私なんかのことを考えて。
そう、だから愛している。だから私はあなたのことが好きなのに。
胸の奥からこみ上げてくる思いで言葉が詰まる。
でも、だからこそ、生きていてほしいんです。あなたに!