目覚めない夫を前に泣き腫らして、悲劇のヒロインを気取る暇なんてなかった。
カミルとはそのようにして出会い、私たちは結婚する。
私の家からは資金援助を、トレーガー家からはカミルという人材を手札として。
内実は政略結婚だったけど、馬鹿な私は素敵な婚約者に巡り合えたと能天気に喜んでいた。
貧乏という言葉は知っていてもその過酷さを知らない私は、やはりその後もしばらくはお気楽なお飾りの妻でしかなかった。
けれど、彼と結ばれたことだけは絶対に間違いなんかじゃない。
それだけは今も自信を持って言える。
実家から先方の家に嫁入りし、今までの生活からいくぶんかグレードが落ちても、私が自分を不幸だと思わなかったのは、カミルが私を愛してくれたからだった。
それが政略結婚であろうとも。
無論、最初のうちは義理や義務感が先立っていたかもしれない。
でも彼は、トレーガー家を建て直すための雑事に追われながら、私の前では忙しさや気苦労を見せず、いつも笑顔で接し、尽くしてくれた。
傍目には子供だましの夫婦ごっこのようでも、そこにはしっかりと真心があって。
日々の忙しい合間を縫って私との時間を作ってくれた彼の優しさは、愚かな私でもちゃんと感じることができていた。
むしろ、何をするでもない二人だけのささやかな時間は、贅を尽くした今までのどの娯楽よりも新鮮で、楽しく、愛おしいものだった。