目覚めない夫を前に泣き腫らして、悲劇のヒロインを気取る暇なんてなかった。

 その言葉に、さっと血の気が引く。
 目の前がぐらりと揺れた。
 そんな。そんなことって。
 やめて。あなたと離れたくない。

「カミル!」

「フォルストたちからの伝言だ。君に『申し訳ありません』と。でも、どうか彼らを責めないでやってくれ。これは、俺も含めた全員の総意なんだ」

「カミル、私は……!」

「君は本当によくやってくれた。家を守るだけじゃない。皆の心を繋ぎとめ、皆が君のことを大切に思っていた。それは誇るべき君の功績だよ」

 徐々に体が光を放ち始める。
 夫はそれに構わず、穏やかな声音で言葉を続けた。

「俺たちのことは気にするな。トレーガーの家はなくなるだろうが……皆、どこへ行っても元気にやっていけるさ。そのための準備も進めてある」

「私は……私は、あなたを……!」 

「もう一度言っておく。俺は十分に幸せだった。だから、いいんだよ」

 良くない。良くない。全然良くない。
 でも、もう遅い。
 体が消えていく。この時間軸から、私がいなくなっていく。

「カミル……カミル、カミル!」

「リタ、俺のたった一人の妻よ。どうか、幸せであれ。……愛している」

「私も……愛しています……!」

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