カレシの塁くんはあたしの唇を求めてない
ゴミ捨てを終え、塁くんと一緒に教室に戻る。塁くんから「もう少しゆっくり歩こう」と言われ、アリが移動する歩幅並みにちまちまと歩く。
――ふと塁くんに視線を向けると、とてつもなく顔が赤かった。おまけに汗も垂れている。
「……塁くん? 気づかなくてごめんね! あたし先生呼んでくるよ!」
「え、なんで先生!?」
「だって塁くん体調悪いんでしょ? それなのに、ゴミ出しさせちゃってごめんね」
塁くんの『ゆっくり歩こう』の意味を分かっていなかった。塁くんは体調が悪いんだ。それなのに無神経にゴミ出しをさせてしまった。
塁くんの隣を離れて走り出そうとした。――と同時に、グンとあたしの腕は塁くんに掴まれた。
「違くて。どういう風に言ったらしーちゃんを……あ、いや、えーっと、兼元に伝わるかなって考えてたら頭真っ白になっちゃって」
………………ん? しーちゃん?? 今、あたしのこと『しーちゃん』って言った? まあ、確かにしーちゃんで合ってるけど、しーちゃんなんて親以外呼ばれたことない。
あたしは兼元汐里。高校一年生の十六歳で、腰まである髪は色素が薄く茶髪に近い。いつも二つに結んでいる。皆からは『汐里』とか『兼元』と呼ばれている。だから、塁くんが実はあたしのことを影でそう呼んでいたと思うと、なんだか歯痒く感じた。