カレシの塁くんはあたしの唇を求めてない




プライベートでのあたしと塁くんの呼び方は未だに『しーちゃん』『塁くん』のままで、あたしの要望で付き合っていることは内緒にしてほしいと伝えた。だから、塁くんに告白する女の子の数が減ったわけではなく、むしろ多くなっているように感じる。



二人きりなんて学校ではなかなかなれない。放課後や休日になると、塁くんはサッカーの部活に行ってしまう。唯一、夜に少し電話をする、そのルーティンであたし達の関係は成り立っている。



「あっ、やっべ! 赤のペンキ買い忘れた! めんど! どうしよー」 



あたし達のクラスは無難にお化け屋敷をすることになった。



クラスの鳩田(はとだ)くんが『ペンキがない』と騒いでいる。鳩田くんの担当は看板作りだ。ペンキを買いに行くにしても片道30分は掛かるだろう。



ちょうど手が空いていたあたしは鳩田くんに、「あたし買ってこようか?」と、問いかけた。



「え、マジ? いいの?」



「うん。担任の先生から『休憩がてらに差し入れ買ってきてほしい』って、お金預かったから」



「サンキュー、助かる!」



差し入れがあると分かった皆は、各々『あたしチョコのアイスがいいー』だの『俺、ガリガリくーん』だの、『アイスの実』だの、好きなアイスを言い合っている。誰が何をほしいのか紙にメモし、最後、別室で作業をしていた塁くんチームのところに顔を覗かせた。


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